高粘度液体の定量吐出はなぜ難しいのか、技術的な視点で整理してみた

接着剤、シール材、グリース、放熱材。製造現場でこのあたりの「高粘度液体」を扱っている人なら、一度は「なぜこんなに吐出量が安定しないんだ」と頭を抱えた経験があるんじゃないかと思います。低粘度の液体ならそこそこのディスペンサーでも十分なのに、粘度が1万、10万、100万mPa·sと上がっていくにつれ、ノズル詰まり、吐出量バラツキ、立ち上げ不良が次々に襲ってきます。カタログには「高粘度対応」と書いてあったはずなのに、なぜ現場では思い通りにいかないのか。

申し遅れました。製造現場コンサルタントの野村健介と申します。前職の電子部品メーカーで生産技術として15年勤務し、接着剤・シール材・グリース塗布の工程を中心に、ディスペンサー設備を20機種以上扱ってきました。退職後は中小製造業の塗布工程改善を支援していますが、相談を受ける案件の半分くらいは高粘度液体まわりの困りごとです。

この記事では、高粘度液体の定量吐出がなぜ技術的に難しいのか、その理由を流体の性質、吐出方式、現場で起こる実際のトラブルまで含めて整理します。読み終わるころには、「なぜうちの工程ではこのトラブルが起きていたのか」「どこを直せば解決の糸口が見えるのか」という判断軸が手元に残るはずです。

そもそも何mPa·sから「高粘度」と呼ぶのか

技術論に入る前に、粘度の感覚を揃えておきます。

粘度は「液体の流れにくさ」を表す物性値で、単位はmPa·s(ミリパスカル秒)が一般的です。住友重機械プロセス機器の撹拌講座でも整理されているとおり、粘度はせん断応力とせん断速度の比で定義されており、単位の中に「秒」が入っているのは、せん断速度の条件によって粘度の値が変化するためです。

身近な液体の粘度を並べてみると、高粘度の感覚がつかみやすくなります。

液体の例おおよその粘度(mPa·s)
水(20℃)約1
牛乳約3
食用油50〜100
はちみつ5,000〜10,000
ケチャップ50,000〜100,000
一般的なシリコーン系シール材100,000〜500,000
高充填グリース、放熱材500,000〜1,000,000
メタルペースト、エポキシ系封止材1,000,000以上

経験則ですが、おおむね1万mPa·sを超えてきたあたりから「これは高粘度だな」と感じる現場が多い印象です。10万mPa·sを超えるとシリンジに自重で吸い込ませることもできなくなり、100万mPa·sを超えると専用設備が必須になります。冒頭で挙げた「思い通りにいかない」現場のほとんどは、この10万〜100万mPa·sの帯域です。

高粘度液体の定量吐出が難しい5つの技術的理由

ここからが本題です。なぜ高粘度になると定量吐出が一気に難しくなるのか。理由を5つに分解して整理します。

理由1:流れにくいので圧力損失が大きくなる

最初の理由は単純で、流れにくいからです。

液体を配管やノズルに通すと、必ず圧力損失が発生します。粘度が高いほど、同じ流量を確保するために必要な圧力は急激に増えます。配管径が細いほど影響は大きく、ノズル先端の細い経路ではこの傾向が極端に出ます。

現場感覚で言うと、水なら0.1MPaで済むところが、10万mPa·sの材料だと数MPa、100万mPa·sを超えると10MPa以上の圧力が必要になることもあります。市販の高粘度対応ディスペンサーが、軒並み10MPa前後の高圧仕様になっているのは、この物理的な要請があるためです。

理由2:多くの高粘度液体は「非ニュートン流体」である

これが本記事で一番重要なポイントだと思います。

水のように「せん断速度を変えても粘度が一定」の流体をニュートン流体と呼びます。これに対して、せん断速度を変えると粘度が変化する流体が非ニュートン流体です。日本機械学会の機械工学事典によれば、ペイント、アスファルト、グリース、高分子物質の融液などはすべて非ニュートン流体に分類されます。

非ニュートン流体には主に4つのタイプがあります。

タイプ性質代表的な液体
擬塑性流体(シアシニング)せん断速度を上げると粘度が下がる多くの高分子溶液、塗料、接着剤
ダイラタント流体(シアシッキニング)せん断速度を上げると粘度が上がる高充填フィラー材、片栗粉スラリー
ビンガム流体一定の応力(降伏応力)を超えるまで流れない練り歯磨き、グリースの一部
粘弾性流体粘性と弾性の両方を持つゴム系シール材、シリコーン

製造現場で扱う高粘度液体は、ほぼ間違いなくこのいずれかに当てはまります。つまり、ノズル内のせん断速度が変わるたびに見かけ上の粘度が変わってしまう。これが定量吐出を難しくする本質的な理由です。

理由3:チキソトロピー性で粘度が時間とともに変わる

非ニュートン流体の中でも特に厄介なのが、時間依存性を持つ「チキソトロピー流体」です。

チキソトロピー性とは、せん断を加えると粘度が下がり、せん断を止めて時間が経つと粘度が回復する性質のこと。塗料がわかりやすい例で、刷毛で塗っているあいだは滑らかに伸び、塗り終えたあとは垂れずに留まります。これは塗料がチキソトロピー性を持つように設計されているからです。

兵神装備のモーノディスペンサー技術コラム「吐出における粘性の影響」では、高分子系流体にせん断応力を加えると高分子鎖が切断され、その後も粘度が低下したまま戻りにくくなる現象が指摘されています。つまり、ポンプを通過した後の液体は、通過前と物性が変わっている可能性があるということです。

これは現場で何が起きるかというと、ライン立ち上げ直後と数十分稼働した後で吐出量が違う、停止時間を挟むと吐出が安定するまでに時間がかかる、といったトラブルになって現れます。

理由4:温度の影響を強く受ける

高粘度液体は、温度による粘度変化が極端に大きい傾向があります。

ニュートン流体の水ですら、20℃から30℃に上がると粘度はおよそ20%下がります。ところがエポキシ系の接着剤や高粘度シール材になると、5℃の温度差で粘度が2倍、3倍違うというケースもざらです。これは高分子の運動エネルギーが温度に強く依存するためで、物性として避けようがありません。

私が前職で経験した話ですが、空調管理がゆるい工場で、午前と午後で吐出量が10%以上ずれた工程がありました。原因を追っていくと、午後の日射で材料タンクの温度が3℃ほど上がっていただけ。たかが3℃、されど3℃です。高粘度液体を扱うなら、温調はオプションではなく必須要件と考えたほうが安全です。

理由5:気泡と残量変動が致命傷になる

最後は構造的な問題です。

高粘度液体は気泡を抜くのが極端に難しい。粘度が高いと気泡が浮上する速度が遅く、シリンジやタンクに巻き込んだ気泡がそのまま残ります。気泡を含んだ状態で吐出すると、ノズル先端でショット中に気泡がはじけ、吐出量がガクッと変動します。シリンジ充填時の脱泡作業を疎かにすると、いくら高性能なディスペンサーでも安定しません。

もう一つは残量変動です。エアパルス方式(後述します)を使っている場合、シリンジ内の液量が減るにつれて液面の位置(水頭差)が変わり、見かけ上の吐出圧が変動します。低粘度なら水頭差の影響は小さいのですが、高粘度では液体内部の流動抵抗のほうが支配的になり、残量50%と10%で吐出量が目に見えて違ってくることがあります。

吐出方式によって高粘度への適性が分かれる理由

ここまでで、高粘度液体そのものの難しさを整理しました。次は「ディスペンサー側の事情」に話を移します。

ディスペンサーの吐出方式は、武蔵エンジニアリングのFAQページでも整理されているとおり、エアパルス方式、JET方式、容積計量方式(プランジャー式)、スクリュー方式、チュービング方式の5つに大別されます。このうち高粘度に対応できる方式は限られていて、現場での得意・不得意がはっきり分かれます。

吐出方式高粘度適性主な特徴
エアパルス方式△(〜数万mPa·s程度まで)シンプルで安価。残量・温度・粘度変化に弱い
JET方式△〜○非接触で高速。粘度上限はメーカー仕様に依存
プランジャー方式(容積計量式)ストロークで吐出量を機械的に決める。安定性高い
スクリュー方式フィラー入りの超高粘度に対応。連続吐出向き
チュービング方式×低粘度の瞬間接着剤など向き

なぜこういう適性差が生まれるのか、特に重要な2方式について踏み込んで見ていきます。

エアパルス方式が高粘度で苦戦する理由

エアパルス方式は、シリンジに圧縮エアを加え、ノズル開放時間で吐出量をコントロールする方式です。最も普及していて、汎用性に優れる反面、構造的に高粘度との相性は悪い。

理由は3つ。

  • エアの応答性が悪く、ノズル開放時の立ち上がり・立ち下がりが鈍い。粘度が高いほどこの遅延が顕著になる
  • シリンジ残量による水頭差の影響を受ける。高粘度では流動抵抗が支配的になり、残量変化と粘度変化のダブルパンチで吐出量がぶれる
  • 温度変化で粘度が変わると、同じエア圧・同じ開放時間でも吐出量が変わる

ナカリキッドコントロールのディスペンサ吐出方法解説ページでも、各方式の特性が整理されており、エアシャッター方式やプランジャー方式、エンドレススクリュー方式など、複数の機構が用途ごとに使い分けられている実情が紹介されています。

10万mPa·sを超える材料をエアパルス方式で扱おうとすると、まずノズル先端から液が出てこない、出てきたとしても糸を引いて切れない、ショット間で吐出量がばらつく、というトラブルが起きやすくなります。低粘度向けの設計を高粘度に流用しようとして失敗する、という典型パターンです。

スクリュー方式が高粘度に強い理由

一方、スクリュー方式(容積計量式の代表)は、高粘度液体を扱う現場で圧倒的な強さを発揮します。

仕組みは、らせん状のロータをモータで回転させ、その回転推進力で液体を押し出すというもの。回転量で吐出量が決まるため、粘度が変動しても、温度が変わっても、残量が減っても、機械的に決まったボリュームを送り出せます。これが容積計量式の最大のメリットです。

加えて、スクリュー方式には高粘度に強い構造的理由もあります。

  • 強い吸引・推進力を持ち、フィラー入りの超高粘度ペーストでも通せる
  • 連続吐出が得意で、ビード塗布やライン塗布に向く
  • ロータの回転数で吐出量が線形に変わるので、制御がしやすい

数十万から100万mPa·sを超える材料を扱う現場では、スクリュー方式以外の選択肢が事実上ない、ということもあります。

現場で起きがちな「高粘度ならではのトラブル」と対策

理論はここまでにして、実際に現場で何が起きるか、私が見てきたトラブルをいくつか紹介します。これを知っておくと、設計段階で潰せる落とし穴が見えるはずです。

ノズル詰まり

高粘度液体の現場で最も頻発するのがノズル詰まりです。

原因は大きく3つ。1つ目は液体の硬化。エポキシやUV硬化型のように反応性のある材料は、ノズル先端で湿気や光に触れて固まります。2つ目はフィラーの目詰まり。導電性接着剤や放熱材に含まれる金属フィラーが、ノズル内径より大きい凝集体を作って詰まる。3つ目は乾燥皮膜。長時間停止するとノズル先端が乾いて皮膜になり、再立ち上げ時に出てこない。

対策としては、停止時のノズルキャップ装着、適切な内径選定(フィラー粒径の3倍以上が目安)、定期的なノズル交換のルール化です。地味ですが、生産現場で歩留まりを左右するのはこういう運用です。

吐出立ち上がりの遅れ

エアパルス方式や圧送式の高粘度ディスペンサーでよくあるのが、ライン稼働開始直後の吐出量不足です。

これは配管内の液体が圧縮されて圧力が立ち上がるまでに時間がかかるためで、最初の数ショットが規格外になります。対策は捨てショット運用(最初の何ショットかは廃棄前提で打つ)、またはサーボ制御の容積計量式に切り替えてレスポンスそのものを改善する方向です。

吐出量の経時変化

数時間稼働すると吐出量が徐々に変わっていく現象。

原因はチキソトロピー性による粘度低下、温度上昇による粘度低下、シリンジ残量による水頭差変化など複合的です。原因切り分けのコツは、温度ロガーをタンクに付けて時系列でデータを取ること。吐出量の変動と温度変動の相関を見れば、温調が必要かどうか判断できます。

切れの悪さ・糸引き

ショット終了時にノズルから液が糸を引いて切れない現象。

これは粘弾性流体の特性が出ている状態で、対策としては吐出終了時のサックバック制御(ピストンを少し引き戻して液を吸い戻す機能)、ノズル離脱時のリトラクト動作、ジェット方式への切り替えなどがあります。シール材の連続塗布で必須の機能です。

高粘度対応ディスペンサーを選ぶときの実務チェック項目

最後に、設備選定の段階で確認しておきたい項目を整理しておきます。

まず適用粘度範囲。自社材料の最大粘度に対して、2倍以上のマージンがある機種を選んだほうが安全です。冬場の温度低下でカタログ値ギリギリだと、現場で不安定になります。

次にポンプ圧力(最大吐出圧)。高粘度ほど必要で、10万mPa·sなら数MPa、100万mPa·sを超えるなら10MPa以上が一つの目安になります。

吐出方式の選定も重要です。粘度50万mPa·s以上ならスクリュー式が第一候補、50万以下ならプランジャー式や圧送+容積計量の組み合わせも視野に入ります。

温調機能の有無は、自社材料の温度感度次第。ノズル温調、シリンジ温調、配管温調のどこまで対応するか、材料の粘度─温度カーブを実測してから判断するのが確実です。

そして見落とされがちなのが、脱泡・充填の運用設計。本体性能だけでなく、材料の脱泡や補充をどう回すかまで設備選定の段階で考えておかないと、後から運用が回らなくなります。最後にメンテナンス性。ロータやシール部の交換頻度、洗浄方法、消耗品コストは、本体価格よりも運用コストの差として効いてきます。

国産メーカーで1液型の高粘度対応ディスペンサーを比較検討するなら、適用粘度範囲とポンプ圧力の組み合わせをスペック表で見比べると、機種ごとの守備範囲がはっきりします。たとえば1液型の高粘度対応ディスペンサーの実機例(NLC社P-FLOW H型)では、粘度1〜1,050,000 mPa·s、最大ポンプ圧力19.6MPaという仕様が公開されており、この帯域でどのくらいの圧力設計が現実的なのか、感覚をつかむ材料になります。同類の製品をいくつか並べて見比べるのが、自社工程に合う仕様帯を見極める一番の近道です。

まとめ

高粘度液体の定量吐出が難しい理由を、技術的な視点で整理してきました。

ポイントを振り返ると、難しさの根っこには「流れにくさによる圧力損失」「非ニュートン流体としての挙動」「チキソトロピー性」「温度依存性」「気泡や残量変動」の5つがあります。さらに、ディスペンサーの吐出方式によって高粘度への適性が大きく異なり、エアパルス方式は10万mPa·s前後が実用上の壁、それ以上はスクリュー方式や容積計量式が中心になります。

現場で起きるトラブルの多くは、この物性と方式のミスマッチが原因です。「高粘度対応」と書いてあるカタログをそのまま信じるのではなく、自社材料の粘度・温度感度・チキソ性を測ったうえで、機種の適用範囲とマージンを見比べる。地味ですが、これが結局は一番の近道です。

設備選定で迷ったら、メーカーのアプリケーションエンジニアに自社材料を持ち込んで、実機テストをお願いするのがおすすめです。スペック表だけでは見えない「実際にやってみたら吐出できなかった」を防ぐには、これに勝る方法はありません。